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2 OpenVMS Galaxyの概要

OpenVMS Alphaバージョン7.2で,OpenVMSの複数のインスタンスを1台のコンピュータで協調させながら実行できるコンピューティング・ モデルが導入されました。

2.1 新しいコンピューティング・モデルと新しいソフトウェア・ アーキテクチャ

適応型パーティション化マルチプロセシング(APMP)は,オペレーティング・ システムの複数のインスタンスを1台のコンピュータで協調させながら実行できる新しいコンピューティング・ モデルです。APMPでは, オペレーティング・システムの複数のインスタンスを実行するために,プロセッサ( および他の物理リソース)がパーティション分割されます。

APMPは対称型マルチプロセシング(SMP)や超並列プロセシング(MPP)などと同様に, マルチプロセッサ・コンピューティングの1つの形態です。たとえば, 同一のコンピュータ(ハードウェアが同じ)が2台ある場合,1台はSMP システムとして稼動し,もう1台はAPMPシステムとして稼動することができます。

Galaxyソフトウェア・アーキテクチャは,適応型パーティション化マルチプロセシング(APMP) 機能を利用した補足的なアーキテクチャです。Galaxy アーキテクチャは,APMPコンピューティング・モデルを完全に活用するソフトウェア構造と操作コンポーネントを提供します。

2.2 OpenVMS Galaxyソフトウェア・アーキテクチャ

APMPモデルをCompaqが初めて実装したものがOpenVMS Galaxyソフトウェア・ アーキテクチャであり,APMPを利用してOpenVMSの複数のインスタンスを1 台のコンピュータで実行します。

ソフトウェアはCPU,メモリ,I/OポートをOpenVMSオペレーティング・システムの個々のインスタンスに割り当てることで, これらのリソースを論理的に パーティション分割します。このパーティション化はシステム管理者が行うものであり, ソフトウェアの機能です。ハードウェアを物理的に分割する必要はありません。 各インスタンスには,動作に必要なリソースが割り当てられます。OpenVMS Galaxy 環境は,CPUなどのリソースをOpenVMS の異なるインスタンスに動的に再割り当てすることができるという点で, 適応型です。

2.3 OpenVMS Galaxyの構成要素と概念

OpenVMS GalaxyがAPMPを利用してOpenVMSの複数のインスタンスを1台のコンピュータでどのように実行するかを理解するには, この新しいコンピューティング・ モデルを理解することが重要です。

OpenVMS Galaxyソフトウェア・アーキテクチャには,次のハードウェアおよびソフトウェア・ コンポーネントが含まれています。

コンソール

OpenVMSシステムのコンソールは,接続されている端末と,ファームウェア・ プログラムで構成されます。ファームウェア・プログラムは電源投入時の自己診断テスト, ハードウェアの初期化,システム・ブートの開始, システム・ブートとシャットダウン時のI/Oサービスを実行します。 また,コンソール・プログラムはコンソール端末の入出力,環境変数の検索,NVRAM ( 不揮発性ランダム・アクセス・メモリ)の保存をはじめ, その他のさまざまなサービスのために,オペレーティング・システムに実行時サービスも提供します。

OpenVMS Galaxyコンピューティング環境では,コンソールはハードウェア・ リソースのパーティション分割で重要な役割を演じます。NVRAMに永久的なシステム構成を保存し, 稼動中の構成をメモリに記憶します。コンソールは,OpenVMS オペレーティング・システムの各インスタンスに対して, 実行中の構成データを指すポインタを与えます。

共用メモリ

メモリは論理的に,プライベート・セクションと共用セクションに分割されます。 オペレーティング・システムの各インスタンスには,それぞれ独自のプライベート・ メモリがあります。つまり,他のインスタンスはプライベート・ メモリの物理ページをマッピングしません。共用メモリの一部は,OpenVMS のインスタンスが他のインスタンスと通信するために使用され, 残りの共用メモリはアプリケーション用に使用されます。

Galaxyソフトウェア・アーキテクチャは,ノンユニフォーム・メモリ・アクセス(NUMA) 環境用に準備されており,このようなシステムが最大限のアプリケーション性能を実現できるように, 必要に応じて特殊なサービスを提供します。

CPU

OpenVMS Galaxyコンピューティング環境では,インスタンス間でCPUを再割り当てすることができます。

I/O

OpenVMS Galaxyには,スケーラビリティの高いI/Oサブシステムがあります。 これは,各インスタンスに対して1つずつ,複数のプライマリCPUがシステム内にあるからです。 また,OpenVMSは現在,SMPシステムのセカンダリCPU に一部のI/Oを分散するための機能も備えています。

独立インスタンス

OpenVMS Galaxyでは,リソースをまったく共用せずに,1つ以上のOpenVMS インスタンスを実行できます。リソースを共用しないOpenVMSインスタンスを 独立インスタンスと呼びます。

OpenVMSの独立インスタンスは共用メモリの使用に参加しません。基本オペレーティング・ システムもアプリケーションも,共用メモリにアクセスしません。

OpenVMS Galaxyは独立インスタンスだけで構成することができます。このようなシステムは従来のメインフレーム・ スタイルのパーティション化によく似ています。

2.3.1 APMPの概念

アーキテクチャの面から考えると,APMPはSMPハードウェア・アーキテクチャを基礎にしています。CPU ,メモリ,I/Oはマシン内で完全に接続されているものと想定されており, メモリはキャッシュと密接に結合されているものと想定されています。 各サブシステムは他のすべてのサブシステムに完全にアクセスできます。

図 2-1に示すように,APMPはリソースをパイであると考えます。 さまざまなリソース(CPU,プライベート・メモリ,共用メモリ,I/O) は,特定の階層構造でパイの内部に同心円として並べられます。 その場合,共用メモリが中心になります。

図 2-1 APMPの概念図

APMPでは,それぞれ異なるサイズの複数のスライスにパイを分割する機能がサポートされます。 各スライスは,サイズとは無関係に,すべての共用メモリにアクセスできます。 さらに,パイを分割するのはソフトウェアであるため, スライスの数やサイズは動的に変化させることができます。

つまり,パイの各スライスはオペレーティング・システムの完全なインスタンスです。 各インスタンスには専用のプライベート・メモリ,多くのCPU ,必要なI/Oが割り当てられます。各インスタンスは,アプリケーション・ データが格納されているすべての共用メモリを確認できます。システム・ リソースは,再ブートせずにオペレーティング・システムのインスタンス間で再割り当てすることができます。

2.3.2 別のAPMP概念図

システムのリソースがどのように分割されるかについて,APMPコンピューティング・ モデルを別の方法で表すこともできます。

たとえば,次の図では,1つのリソースをインスタンス間で分割する割合が, 他の各リソースを分割する割合であることを示しています。

                      Physical
                      Memory               CPU                 I/O
                     +------+ - - - - - -+------+ - - - - - -+------+
                     |      |            |      |            |      |
         Instance 1  |  M1  |            |      |            |  I1  |
                     +______+            |      |            +______+
                     |      |\           |      |           /|      |
                     |      | \          |      |          / |      |
         Instance 2  |  M2  |  \         |  C1  |         /  |      |
                     |      |   \        |      |        /   |      |
                     +______+    \       |      |       /    |      |
                     |      |\    \      |      |      /     |      |
                     |      | \    \     |      |     /      |      |
                     |      |  \    \    |      |    /       |      |
                     |      |   \    \   |      |   /        |  I2  |
                     |      |    \    \  |      |  /         |      |
                     |      |     \    \ |      | /          |      |
                     |      |      \    \+______+/           |      |
                     |      |       \    |      |            |      |
         Instance 3  |  M3  |        \   |      |            |      |
                     |      |         \  |  C2  |            |      |
                     |      |          \ |      |            |      |
                     |      |           \+______+ - - - - - -+______+
                     |      |            |      |            |      |
                     |      |            |      |            |      |
                     |      |            |  C3  |            |  I3  |
                     |      |            |      |            |      |
                     +------+ - - - - - -+------+ - - - - - -+------+
                     |  Shared Memory                               |
                     |                                              |
                     +------+ - - - - - -+------+ - - - - - -+------+

2.4 OpenVMS Galaxyの機能

OpenVMS機能の進歩にともない,OpenVMS Galaxyでは,実績のあるOpenVMS Cluster,対称型マルチプロセシング,性能を向上するためのさまざまな機能を活用して, これまでより高いレベルの性能,スケーラビリティ,可用性を提供しており, 非常に柔軟な操作機能も提供します。

クラスタ

OpenVMS Clusterテクノロジには15年にわたる実績があり,OpenVMS Galaxy内でクラスタ接続されたインスタンス間で通信を容易にします。

OpenVMS Clusterはソフトウェアの概念です。これは,各コンピュータで1 つずつ OpenVMSオペレーティング・システムを結合したものであり, さまざまな通信媒体を介して通信することで,複数のコンピュータの処理パワーと記憶容量を1 つの共用環境として構築します。

OpenVMS Galaxyもソフトウェア概念です。しかし,これは1台のコンピュータ で協調動作するOpenVMSオペレーティング・システムの集合であり, 共用メモリを通じて通信します。OpenVMS Galaxyでは,オペレーティング・ システムのインスタンスをGalaxy内の他のインスタンスや他のシステムのインスタンスとクラスタ接続することができます。

OpenVMS Galaxyはそれ自体で完全なシステムです。現在,複数のクラスタ・ ノードを増設できるのと同様に,OpenVMS Galaxyも既存のクラスタに追加することができますが,OpenVMS Galaxy アーキテクチャではシングル・ システムという点に焦点を絞っています。OpenVMS Galaxy内で完全に稼動するアプリケーションは, マルチシステム・クラスタでは実現できない高い性能を活用することができます。

SMP

OpenVMS GalaxyのインスタンスはSMP構成にすることができます。CPUの数はインスタンスの定義の一部です。OpenVMS Galaxy のインスタンスは,完全なOpenVMS オペレーティング・システムであるため,すべてのアプリケーションが従来のシングル・ インスタンス・コンピュータの場合と同様に動作します。

CPUの再割り当て

CPUはあるインスタンスから別のインスタンスに動的に再割り当てすることができ, その間も2つのインスタンス上ですべてのアプリケーションの実行を継続できます。 再割り当ては3つの独立した機能によって実現されます。 それは,再割り当てするCPUの停止,再割り当て,起動です。アプリケーションで必要なリソースが変化すると,CPU を適切なインスタンスに再割り当てすることができます。 しかし,いくつかの制限があります。 たとえば,インスタンスのプライマリCPUを再割り当てすることができず, 特定の割り込みを処理するために,特定のCPUを指定することはできません。

動的な再構成

OpenVMSオペレーティング・システムの複数のインスタンスを実行することで, システム管理者は,処理パワーを最も必要としているアプリケーションを稼動しているインスタンスにその処理パワーを再割り当てすることができます。 要件の変化にともなって,構成も変更することができます。 OpenVMSでは,すべてのインスタンスおよびそのアプリケーションの実行を続行しながら, 動的な再構成が可能です。

2.5 OpenVMS Galaxyの利点

OpenVMS Galaxyテクノロジの多くの利点は,OpenVMSオペレーティング・ システムの複数のインスタンスを1台のコンピュータで実行することで実現されています。

OpenVMSの複数のインスタンスを同時にメモリに格納することで,OpenVMS Galaxyコンピューティング環境は次の機能を飛躍的に向上させます。

ここでは,これらの利点についてさらに詳しく説明します。

互換性

既存のシングル・システム・アプリケーションは,まったく変更せずに, OpenVMS Galaxyのインスタンスで実行できます。既存のOpenVMS Cluster アプリケーションも,OpenVMS Galaxyのクラスタ接続されたインスタンスで, 変更せずに実行できます。

可用性

OpenVMS Galaxyシステムは,従来のシングル・システムSMPシステムより高い可用性を提供できます。 これは,オペレーティング・システムの複数のインスタンスがハードウェア・ リソースを制御するからです。

OpenVMS Galaxyでは,OpenVMSの複数のバージョン(バージョン7.2以上)を同時に実行できます。 たとえば,現在のバージョンを1つのインスタンスで実行しながら, オペレーティング・システムやアプリケーションの新しいバージョンを別のインスタンスでテストすることができます。 その後, 一度に1つずつ,各インスタンスでシステム全体をアップグレードすることができます。

スケーラビリティ

システム管理者は,ビジネス・ニーズの拡大や変化にともなって,アプリケーションの要件に対応するようにリソースを割り当てることができます。CPU がGalaxy構成に追加された場合は,OpenVMSのどのインスタンスにでも割り当てることができます。 つまり,アプリケーションはCPUのパワーを100 % 利用できるのです。

SMPでスケーラビリティに関して一般的に発生する問題点のために, OpenVMS Galaxyが制限を受けることはありません。システム管理者はOpenVMS インスタンスの数を定義し,各インスタンスでCPUの数を割り当て, その使用方法を制御することができます。

さらに,試行錯誤を繰り返しながらリソースを評価することができます。 システム管理者は最も効果的なリソースの組み合わせが見つかるまで,OpenVMS のインスタンス間でCPUを再割り当てすることができます。 OpenVMSのすべてのインスタンスとそのアプリケーションは,CPUを再割り当てしている間も実行を継続できます。

適応性

OpenVMS Galaxyでは,すべてのアプリケーションの実行を継続しながら, コンピューティング・リソースをオペレーティング・システムの他のインスタンスに動的に再割り当てすることができるので, 非常に高い適応性を実現できます。

CPUの再割り当て機能は,OpenVMS Galaxyコンピューティング環境の適応機能をもっとも顕著に表すものです。 たとえば,特定の時刻に必要とされるリソースが変化することがシステム管理者にわかっている場合は, システム管理者はCPU をOpenVMSの他のインスタンスに再割り当てするコマンド・ プロシージャを作成し,そのプロシージャをバッチ・キューに登録することができます。 同様の方法で,システム負荷も管理することができます。

OpenVMS Galaxy環境では,ハードウェア・リソースの割り当てや動的な再割り当ては, ソフトウェアによって完全に制御されます。ハードウェアがOpenVMS Galaxy システムに追加されると,リソースを既存のインスタンスに追加することができ, 新しいインスタンスを定義することもできます。 その場合,実行中のアプリケーションに影響ありません。

所有コスト

OpenVMS Galaxyでは,コンピュータがクラスタ・メンバの場合も,独立システムの場合も, オペレーティング・システムの複数のインスタンスが1 台のコンピュータで動作するので,既存のコンピュータをアップグレードし, 処理能力を拡大することができ,また,一部のコンピュータを交換することもできます。 必要なコンピュータの台数が削減されるため,必要なシステム管理作業や設置空間も大幅に削減されます。

性能

OpenVMS Galaxyでは,SMPやクラスタ・テクノロジで発生する多くのスケール・ ボトルネックが排除されることで,事務処理アプリケーションの性能を向上できます。 また,インスタンス間で割り込みを分散することができるため, 多くのI/O構成が可能になります。たとえば,特定のI/Oトラフィックが特定のインスタンスで実行されるように, システムのI/O作業負荷を分割することができます。

2.6 OpenVMS Galaxyバージョン1.0の機能

OpenVMS Alphaバージョン7.2では,OpenVMS Galaxy環境を構築して,次の機能を実現できます。


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